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シールドルーム(1) [脳のはなし]

1.シールドルーム?

 シールドルームというのがあります.Shield roomですから「遮断の部屋」です.ちょっと専門的に言うと,「電磁波遮蔽室」でしょうか.電気生理学屋さんにとってはとても大切な場所で,自分の城の様な存在でありながら,唯一の避難場所でもあるのです.私が使っていたシールドルームは,前任の大先生が使用していたものを大幅に改編したものです.電気生理学というのは,非常に小さい生体の電気活動を高精度(?)の増幅器を使って,オシロスコープ(モニター)に波形を映し出すことから始まります.医学部や理学部の学生時代にきっと学生実習というのをやっており,必ずと言っていいほど,筋活動か脳波,心電図などの電気現象を記録したと思います.心電図よりは,筋電図,筋電図よりは脳波の方が,正確な記録が難しくなります.でも,最近の機械は本当に良くできています.誰でも,取扱い説明書に記載されている通りに線を繋げば,それらしき波形がしっかりと記録できます.ですから,臨床の現場や学生実習においてさえも,電気生理屋さんは,全くと言っていい程,必要とされていないのです.でも,何故か,電気生理屋さんは世の中から姿を消すことがありません.しばらくは無いと思います.どうしてでしょう?
 
さて,話を戻すと,シールドルームには設計する先生の意志やこだわりが一杯あります.僕は,これまで,日本やもとより欧米の数多くの実験施設を見てきましたが,欧米の学者さんや研究者さんは,Respect されているな~~っという感想です.実は,シールドルームを見ると,その研究施設や大学のレベルが分かります.分かると言っても僕の解釈の範疇ですが.
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「ドーパミンニューロン」のはなし(4) [脳のはなし]

4.ドーパミンと情動

 情動(Emotion)は,平たく言うと「心」の「動き」である.
 情動は「悲しみ」「喜び」「驚き」「恐怖」「嫌悪」「怒り」の6種類に分類されるようです.情動表現の多くは「顔の表情」でされますが,「歩く姿」や「後姿」など「姿勢」も情動の表現に関与しています.というより,ヒトは,他人や動物の心の動きを「表情」や「姿勢」から推定する能力に長けている様です.これは進化論で有名なダーウィンが言っているので,世界中の多くの人々が,その様に認識していると思います.
 ところで,上の6つの情動のうち,ポジティブな情動と言えば「喜び」です.「恐怖」「怒り」「悲しみ」「嫌悪」は,ネガティブな印象を受けます.「驚き」には双方があります.その様に考えると,ヒトの情動は,ほとんど,ネガティブということになります.(僕は,学生の頃,友人から「暗い奴だ」と言われましたが,この様に考えると,これはヒトである故,仕方ないことになります).しかし,その中にあって,「喜び」の情動を与えることに関与しているのがドーパミンなのです.「喜び」は,我々が生きて行く上で極めて極めて重要です.ですからドーパミンニューロンを守ることは大切なのです.もしもドーパミンが無くなったら,ネガティブの情動の中でヒトは生きていなければならないのかも知れません.これはいたたまれない程,切ないですよね.
 パーキンソン病ではドーパミンニューロンが変性してしまいます.運動が出来なくなり,手足が震え,骨格筋が固縮します.姿勢は屈曲姿勢が特徴で,腰は曲がってしまいます.これらの運動障害でパーキンソン病は特徴づけられていますが,私は,むしろ,ドーパミンが欠乏することによって患者さんには喜びの情動が生じないことがこの疾患の一番の辛さなのではないかと感じています.あたかも重たいものを持ったような屈曲姿勢も,「喜び」を生じない「重たい心」を背負ってしまった姿勢の様に見えて仕方ない(やるせない)時があります.    
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「ドーパミンニューロン」のはなし(3) [脳のはなし]

3.ドーパミンニューロンとカルシウムチャンネル

 

 種による違いがあるものの,ドーパミンニューロンの安定的な発射活動を維持するイオン機構として,カルシウムチャンネルが持つ意義は大きい様である.複数のカルシウムチャンネルが関与しているが,ニフェジピン感受性のカルシウムイオンチャンネル(N-type)やωコノトキシン感受性のカルシウムイオンチャンネル(L-type)などが関与するらしい.調べて行くうちに,どうも,ドーパミンニューロンの発射活動を維持するイオン機構は,心臓細胞の持つイオンチャンネル機構と似ていることが分かった.これらのイオンチャンネルブロッカーをドーパミンニューロンに作用させると,ドーパミンニューロンの安定した発射活動が変化する.血管の収縮にも当然カルシウムチャンネルは重要な役割を演じているので,カルシウムチャンネルブロッカーは,心臓の収縮力を低下させる働きや,高血圧の治療にも用いられています.特に,N-typeのカルシウムチャンネルブロッカーは,臨床的に良く使用されているので,心臓病の治療や高血圧の治療を受けている患者さんのドーパミンニューロンが心配になります.
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「ドーパミンニューロン」のはなし(2) [脳のはなし]

2.ドーパミンニューロンには強い意志がある?

 多くの研究者がドーパミンニューロンに関する研究をしている.
 テネシー大学に居た頃,研究凍結令を受けたことがあり,偶然にも「5か月も研究しないで良いという幸福な状況」を得ることができた.そんな時にすることと言えば,図書館に籠って読みたかった論文をあさること.そうすると,あるある,ドーパミンニューロンの研究が.あの5か月は大きかった,どの領域からどの神経細胞を記録してその発射や形態を解析すれば,無限に論文が書けることを確信しました.とは言っても研究凍結令の最中だったので,研究できずに,このまま日本に帰っても良いとも思っていました(このことについては,後で書くかも知れません).
 ところが,ある事情で研究凍結令が解除されたので実験再開です.論文を読むだけでは,なんとなくつまらなかったので,ドーパミンニューロンを実際に記録してみると,この神経細胞には,1-2Hzで発射するためのイオン分子メカニズムが幾つも存在しているのです(大筋は論文のとおりでした).ドーパミンニューロンも他の神経細胞と同様に,細胞体には抑制性シナプスが,樹状突起には,興奮性シナプスがあるのです.ですから,ドーパミン細胞の発射は興奮性入力と抑制性入力のバランスで調節されると思っていました.
 ところが,ドーパミンニューロンは,興奮性入力を入れても,発射頻度がそれほど増加しないのです.また,抑制性入力を加えても発射がなかなか止まらないのです.つまりドーパミンニューロンは外部から興奮や抑制があっても,自分自身は安定して発射するという恐るべき特徴(頑固さ)を持っているのです.ある意味,単一神経細胞に恒常性の仕組みがあるのです.
 これを実際に確認した時,このニューロンには安定して活動する意志があるかの様に思ったわけです.押されても,引かれても,動じない自らの意思をもっているかの様に思えるドーパミンニューロンを羨ましいと感じたのもこの頃からです.
目上や権力者にはYes manのヒトが,格下と見るや恫喝するという人間社会を見せつけられてきた私にとって,その凛としたドーパミンニューロンの活動は妙に愛おしいものに思えて仕方ありませんでした.


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「ドーパミンニューロン」のはなし(1) [脳のはなし]

1.ドーパミンニューロンとの出逢い

 ドーパミンという物質を知らない医学部卒業生はいないと思う.「パーキンソン病では黒質のドーパミンニューロン(神経細胞)が変性するので・・・・」という文章をいたるところで見ることができる.ドーパミンは神経伝達物質の一種である.ドーパミン産生して,これを放出する神経細胞がドーパミンニューロンである.これを知っている方もかなり多い.もちろん,ドーパミンニューロンはヒトだけでなく,他の多くの動物種にも存在する.
 ところが,ドーパミンニューロンの発射活動を見たことのある人がどれだけいるだろうか?僕とドーパミンニューロンの出逢い(?)は,もう18年も前のことです.テネシー大学に留学した際のことです.ラットの中脳黒質緻密部からその発射活動を直径0.2ミクロン,抵抗値100-200メガオームの微小ガラス管をドーパミンニューロンに刺して,いわゆる細胞内記録という手法で観察するのです(本当は,僕の研究テーマは黒質の隣にある脚橋被蓋核という神経核の神経細胞活動の記録でしたが,ドーパミンニューロンの方が魅力的なのです).とにかく,その発射活動は規則正しく,優雅で美しい.「脳の中にこんな美しい発射活動を持つ神経細胞があるんだ」という感動しかありませんでした.当時,このドーパミンニューロンの美しい発射活動に魅了された研究者が多かったのでしょう.僕にも数人の友人がいます(国際学会でしか逢わないのです)が,ドーパミンニューロンの立ち話で2時間ぐらいは盛り上がります.では,なぜ,ドーパミンニューロンの発射が美しいのか?非常に興味がありますよね.
 これについては,次回書くことにします.

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