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シールドルーム(5) [脳のはなし]

5.究極のシールドルーム?


テネシー大学留学時のことです.スティーブ(教授の愛称)が,外で昼食を取ろうというのです.勿論OKです.場所はメンフィス市のラマーという通り沿いにあるレストランです.ラマーという通りは,結構怖い通りで,その頃は良く暴動や誘拐,殺人などが頻発していました.家の玄関は通りに面しており(これは当たり前でしょうが),何故か,昼間でも住人が椅子に座って通りを眺めているのです.この通りで車がエンストすると,あっという間に住人が集まってきて,その中には真っ赤な目をしている住人もいるという話を聞いたことがありました(今はどの様になっているのか分かりませんし,僕自身はゴルフ場に行くために通ることがたまにあるだけでした).でも,スティーブは,メンフィス一安全なレストランで,ゴア副大統領も良く行くレストランだと言ってました(ゴア副大統領はテネシー出身です).また,かなりおいしいというのです.取敢えず.スティーブのレキサスに乗って,4-5人で出かけました.しかし,そんなところに美味しいレストランがあるなんて想像できませんでした.でも,何となく興味深々でした. なるほど,そこはメンフィス一安全なレストランでした.何と,レストランの建物全体が,鉄格子に囲まれていたのです.流石,アメリカ・・・と絶句しました.スティーブは,We are safe, we are shielded. らしきことを言っておられました.なるほどこれもシールド効果だったのかと思いました...そんなことで,電気生理連中だけで盛り上がる話をしながら,2時過ぎに豪華な昼食が終わったのでした.ただ,外では暴動があったらしく,鉄格子の中から出たのは3時過ぎでした.レストランで食事した後に危険をさけながら店を出ました.それは憶えていますが,何を食べたのか,何が美味しかったのか,今では全く思い出せません. 
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シールドルーム(4) [脳のはなし]

4.何をシールドしているのか?-2

ノイズが取れないシールドルームであっても,電気生理屋さんと呼ばれる人種の中には,どうしてもシールドルームが欲しいと思っている方が多いのではないかと思っています.僕もそのうちの一人でした.今は,こだわりが無くなってきてしまい,電気生理屋さんとしての資質がどんどん消えて行くような気もしています.じゃ,本当にシールドルームは,何をシールドしているのでしょう?シールドルームは,電磁波を遮断するための設備なのですが,ある時から,実験者のオーラを増幅する仕組みであると感じるようになりました.嘗て,随分シールドルームに救われたことがあります.シールドルームの中にいるだけで,周りの方々は近づいてこないのです.例え,教授であろうと先輩であろうと,電磁波の遮断は出来なくとも,人間関係の遮断が可能なのです.これは,最高の避難場所であると痛感しました.「これこそがシールドルームの本当の意味なのだ」と感じました.反対に,シールドルームで作業をしているヒトを視ると声をかけるのに躊躇してしまいます.ですから,シールドルームで作業しているヒトに何の躊躇もなく,そこに入ってくるヒトは空気の読めないヒトであるとも感じていました.電気生理研究者は,シールドルームの中で実験している時こそが至福の時なのです.どうぞ,電磁波を遮断できないようなシールドルームであっても一生懸命実験しているヒトが居る時には,静かにしてあげてほしいと思います.しかし,携帯電話は,シールドルームで仕事をしていても平気でかかってきます.シールドルームで実験するときには,携帯の電源も切るべきであると感じる今日この頃です.でも,やっぱり携帯の電波を遮蔽できないシールドルームはシールドルームではないのでしょうか?
タグ:電気生理
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シールドルーム(3) [脳のはなし]

3.何をシールドしているのか?-1

シールドルームは外部からの電磁波を遮蔽しているという話を書きました.でも,僕が使っていたシールドルームは,全く,完璧ではありませんでした.なんと,シールドルームの中で,ラジオが良く聞こえました.多少,聞こえは悪かったですが.これは驚きでした.研究を始め一週間も経たないうちに判明しました.これは寂しかったですね.....でも,反対に,使用している機器の電磁波をシールドルームの中に閉じ込めているという心配も半減しました.じゃ,なんのためにシールドルームはあるのか?という疑問が次第に首をもたげてきたのです. そもそも,生体の電気活動は非常に小さいので,様々なノイズが混在していると,純粋にその電気活動を記録することが出来ません.結局は,ノイズ源をどの様に特定して,その不要なノイズをどの様に軽減するか(消失させるか)?が大切なのです.そのためには,しっかりした,アースを実験室に引き,電子機器を一つ一つ設置しながら,どの様なノイズが出現するのかを見極めながら,実験室を作り上げる必要があります.機械の配置一つでノイズレベルが変わるのです.もう,四半世紀もこの仕事をやっていると,その機械を視るとどの様なノイズを出すのか,想像付く場合もあります.そして,記録する電極の周囲をできるだけシールドして,その電極が他のノイズを拾わない様に設計するのです.その意味では,他の実験室の作成よりもむしろ電気生理学の実験を作るという作業は結構困難でセンスが要るのです.ですから,前にも書いたように実験室を視ると色々なことが分かるのです.その研究室で出せるデータの信憑性そのものも分かる場合があります.怖いですね.その意味では,今の私の実験室は一流から三流以下になってしまいました.私の責任ですが.でも,「くさいものには蓋をする」というような考え方では,余計なノイズを消すことは絶対にできないと思っています.
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シールドルーム(2) [脳のはなし]

2.適切なシールドルームとは

 

 ロックフェラー大学にはCopper roomというシールドルームがあるのです.部屋の内壁が銅版で作られています.浅沼博先生(世界の浅沼とも呼ばれておられました)という慶応大学医学部出身でロックフェラー大学生理学教室の教授になられた先生がおられます.私の先輩にあたる先生は浅沼先生のもとに留学されており,その部屋を使われておりました.非常に素晴らしい部屋という印象を持ちました.磨けばピカピカになると思いました.それだけでも,ロックフェラー大学が電気生理学研究に対して当時は極めて大きな期待を込めて投資したのだと思います(流石ロックフェラー財閥).確かに浅沼先生の御業績は皆様が教科書で見るとおりです(生理学の教科書を買っていない医学部学生さんが最近は多いと聞きますが,その方は,図書館に行って古い教科書を見てください).でも,そのCopper roomに,僕は,疑問を抱きました.その部屋には,他の部屋からの電磁波は辿り着かないのかも知れません.でも,その部屋の中には数多くの電気機器(電子機器?)があるので,その機械からの電磁波やノイズが一杯です.結局,その部屋の遮蔽は完璧ですから,それらのノイズはその部屋に完璧に閉じ込められることになるのです.その部屋で記録を取るのですから,皆さん苦労していたようです.その部屋が作られたのは,1970年代だと思う(証拠はありません,勝手に想像しているだけです)ので,使う機械も極めて少なく,その部屋で生じるノイズは本当に小さかったのでしょう.それに比べて,その部屋の外では,工事の雑音やわけの分からない電磁波が蔓延していたのだと思います.故に,部屋の外の電磁波を遮蔽することが大切だったのだと思います.今は,自分たちが使用している多数の機器から発生する電磁波を閉じ込めることになってしまったシールドルーム.時代とともに適切なシールドルームの在り方を考えさせられます. それより何より,今,ロックフェラー大学にあのシールドルームは残っているのでしょうか?野口英世の銅像は図書館にあると思いますが,時代の流れとともに分子生物学や遺伝子科学の台頭の影響で消えてしまっているかも知れません.もし無くなっていたら,寂しいな・・とも思います. 
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シールドルーム(1) [脳のはなし]

1.シールドルーム?

 シールドルームというのがあります.Shield roomですから「遮断の部屋」です.ちょっと専門的に言うと,「電磁波遮蔽室」でしょうか.電気生理学屋さんにとってはとても大切な場所で,自分の城の様な存在でありながら,唯一の避難場所でもあるのです.私が使っていたシールドルームは,前任の大先生が使用していたものを大幅に改編したものです.電気生理学というのは,非常に小さい生体の電気活動を高精度(?)の増幅器を使って,オシロスコープ(モニター)に波形を映し出すことから始まります.医学部や理学部の学生時代にきっと学生実習というのをやっており,必ずと言っていいほど,筋活動か脳波,心電図などの電気現象を記録したと思います.心電図よりは,筋電図,筋電図よりは脳波の方が,正確な記録が難しくなります.でも,最近の機械は本当に良くできています.誰でも,取扱い説明書に記載されている通りに線を繋げば,それらしき波形がしっかりと記録できます.ですから,臨床の現場や学生実習においてさえも,電気生理屋さんは,全くと言っていい程,必要とされていないのです.でも,何故か,電気生理屋さんは世の中から姿を消すことがありません.しばらくは無いと思います.どうしてでしょう?
 
さて,話を戻すと,シールドルームには設計する先生の意志やこだわりが一杯あります.僕は,これまで,日本やもとより欧米の数多くの実験施設を見てきましたが,欧米の学者さんや研究者さんは,Respect されているな~~っという感想です.実は,シールドルームを見ると,その研究施設や大学のレベルが分かります.分かると言っても僕の解釈の範疇ですが.
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「ドーパミンニューロン」のはなし(4) [脳のはなし]

4.ドーパミンと情動

 情動(Emotion)は,平たく言うと「心」の「動き」である.
 情動は「悲しみ」「喜び」「驚き」「恐怖」「嫌悪」「怒り」の6種類に分類されるようです.情動表現の多くは「顔の表情」でされますが,「歩く姿」や「後姿」など「姿勢」も情動の表現に関与しています.というより,ヒトは,他人や動物の心の動きを「表情」や「姿勢」から推定する能力に長けている様です.これは進化論で有名なダーウィンが言っているので,世界中の多くの人々が,その様に認識していると思います.
 ところで,上の6つの情動のうち,ポジティブな情動と言えば「喜び」です.「恐怖」「怒り」「悲しみ」「嫌悪」は,ネガティブな印象を受けます.「驚き」には双方があります.その様に考えると,ヒトの情動は,ほとんど,ネガティブということになります.(僕は,学生の頃,友人から「暗い奴だ」と言われましたが,この様に考えると,これはヒトである故,仕方ないことになります).しかし,その中にあって,「喜び」の情動を与えることに関与しているのがドーパミンなのです.「喜び」は,我々が生きて行く上で極めて極めて重要です.ですからドーパミンニューロンを守ることは大切なのです.もしもドーパミンが無くなったら,ネガティブの情動の中でヒトは生きていなければならないのかも知れません.これはいたたまれない程,切ないですよね.
 パーキンソン病ではドーパミンニューロンが変性してしまいます.運動が出来なくなり,手足が震え,骨格筋が固縮します.姿勢は屈曲姿勢が特徴で,腰は曲がってしまいます.これらの運動障害でパーキンソン病は特徴づけられていますが,私は,むしろ,ドーパミンが欠乏することによって患者さんには喜びの情動が生じないことがこの疾患の一番の辛さなのではないかと感じています.あたかも重たいものを持ったような屈曲姿勢も,「喜び」を生じない「重たい心」を背負ってしまった姿勢の様に見えて仕方ない(やるせない)時があります.    
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「ドーパミンニューロン」のはなし(3) [脳のはなし]

3.ドーパミンニューロンとカルシウムチャンネル

 

 種による違いがあるものの,ドーパミンニューロンの安定的な発射活動を維持するイオン機構として,カルシウムチャンネルが持つ意義は大きい様である.複数のカルシウムチャンネルが関与しているが,ニフェジピン感受性のカルシウムイオンチャンネル(N-type)やωコノトキシン感受性のカルシウムイオンチャンネル(L-type)などが関与するらしい.調べて行くうちに,どうも,ドーパミンニューロンの発射活動を維持するイオン機構は,心臓細胞の持つイオンチャンネル機構と似ていることが分かった.これらのイオンチャンネルブロッカーをドーパミンニューロンに作用させると,ドーパミンニューロンの安定した発射活動が変化する.血管の収縮にも当然カルシウムチャンネルは重要な役割を演じているので,カルシウムチャンネルブロッカーは,心臓の収縮力を低下させる働きや,高血圧の治療にも用いられています.特に,N-typeのカルシウムチャンネルブロッカーは,臨床的に良く使用されているので,心臓病の治療や高血圧の治療を受けている患者さんのドーパミンニューロンが心配になります.
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「ドーパミンニューロン」のはなし(2) [脳のはなし]

2.ドーパミンニューロンには強い意志がある?

 多くの研究者がドーパミンニューロンに関する研究をしている.
 テネシー大学に居た頃,研究凍結令を受けたことがあり,偶然にも「5か月も研究しないで良いという幸福な状況」を得ることができた.そんな時にすることと言えば,図書館に籠って読みたかった論文をあさること.そうすると,あるある,ドーパミンニューロンの研究が.あの5か月は大きかった,どの領域からどの神経細胞を記録してその発射や形態を解析すれば,無限に論文が書けることを確信しました.とは言っても研究凍結令の最中だったので,研究できずに,このまま日本に帰っても良いとも思っていました(このことについては,後で書くかも知れません).
 ところが,ある事情で研究凍結令が解除されたので実験再開です.論文を読むだけでは,なんとなくつまらなかったので,ドーパミンニューロンを実際に記録してみると,この神経細胞には,1-2Hzで発射するためのイオン分子メカニズムが幾つも存在しているのです(大筋は論文のとおりでした).ドーパミンニューロンも他の神経細胞と同様に,細胞体には抑制性シナプスが,樹状突起には,興奮性シナプスがあるのです.ですから,ドーパミン細胞の発射は興奮性入力と抑制性入力のバランスで調節されると思っていました.
 ところが,ドーパミンニューロンは,興奮性入力を入れても,発射頻度がそれほど増加しないのです.また,抑制性入力を加えても発射がなかなか止まらないのです.つまりドーパミンニューロンは外部から興奮や抑制があっても,自分自身は安定して発射するという恐るべき特徴(頑固さ)を持っているのです.ある意味,単一神経細胞に恒常性の仕組みがあるのです.
 これを実際に確認した時,このニューロンには安定して活動する意志があるかの様に思ったわけです.押されても,引かれても,動じない自らの意思をもっているかの様に思えるドーパミンニューロンを羨ましいと感じたのもこの頃からです.
目上や権力者にはYes manのヒトが,格下と見るや恫喝するという人間社会を見せつけられてきた私にとって,その凛としたドーパミンニューロンの活動は妙に愛おしいものに思えて仕方ありませんでした.


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「ドーパミンニューロン」のはなし(1) [脳のはなし]

1.ドーパミンニューロンとの出逢い

 ドーパミンという物質を知らない医学部卒業生はいないと思う.「パーキンソン病では黒質のドーパミンニューロン(神経細胞)が変性するので・・・・」という文章をいたるところで見ることができる.ドーパミンは神経伝達物質の一種である.ドーパミン産生して,これを放出する神経細胞がドーパミンニューロンである.これを知っている方もかなり多い.もちろん,ドーパミンニューロンはヒトだけでなく,他の多くの動物種にも存在する.
 ところが,ドーパミンニューロンの発射活動を見たことのある人がどれだけいるだろうか?僕とドーパミンニューロンの出逢い(?)は,もう18年も前のことです.テネシー大学に留学した際のことです.ラットの中脳黒質緻密部からその発射活動を直径0.2ミクロン,抵抗値100-200メガオームの微小ガラス管をドーパミンニューロンに刺して,いわゆる細胞内記録という手法で観察するのです(本当は,僕の研究テーマは黒質の隣にある脚橋被蓋核という神経核の神経細胞活動の記録でしたが,ドーパミンニューロンの方が魅力的なのです).とにかく,その発射活動は規則正しく,優雅で美しい.「脳の中にこんな美しい発射活動を持つ神経細胞があるんだ」という感動しかありませんでした.当時,このドーパミンニューロンの美しい発射活動に魅了された研究者が多かったのでしょう.僕にも数人の友人がいます(国際学会でしか逢わないのです)が,ドーパミンニューロンの立ち話で2時間ぐらいは盛り上がります.では,なぜ,ドーパミンニューロンの発射が美しいのか?非常に興味がありますよね.
 これについては,次回書くことにします.

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